たのしく生きたい

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2020年に触れた文芸作品たち - コロナ禍における文芸、あるいは詩や短歌について

この記事は「文芸 Advent Calendar 2020」の20日目の記事です。

みなさん、文芸してますか?

私は普段から文芸に触れる機会があまり多いわけではないですが、なんとなく今年読んだものを紹介したいと思います。

少しだけ関わった本

小澤みゆき編『海響一号 大恋愛』海響舎

kaikyosha.net

2020年のインディペンデント文芸誌に一大ムーブメントを巻き起こした(?)海響舎による『大恋愛』です。小澤さんは今回のアドベントカレンダーの主催者でもあります。

少しだけ編集のお手伝いみたいなことをやりました。装丁がきんぴかで、かなり良いです。もちろん、内容も最高です。

前作の『かわいいウルフ』は、なんと商業出版社から書籍化するそうです。私の書いた文章も載っており、ぜひたくさんの人に読んでもらいたい2冊です。

コロナ禍における文芸

ヴァージニア・ウルフ『病気になるということ』早川書房(片山亜紀訳)

www.hayakawabooks.com

ヴァージニア・ウルフは、小澤さんとの繋がりで少しずつ読むようになりました。

こちらのnoteは『コロナの時代の僕ら』の出版に併せて掲載されたものです。いわゆる「スペイン風邪」に感染したウルフが、どのような気持ちで過ごしていたのかが書かれています。

コロナ禍ということもあり、感染症による大規模な社会不安の中で過去の人々がどのように乗り越えてきたのかを知りたい気持ちがあり、読みました。

自分が不安なときに、他の人の不安に触れることができると、なんだか安心できる気がします。

パオロ・ジョルダーノ『コロナの時代の僕ら』早川書房(飯田亮介訳)

www.hayakawabooks.com

コロナ禍のイタリアにおいて緊急出版された本です。日本でも4月に訳書が出ており、かなりスピード感を持って出版された本だと思います。

当時は、他の国の状況をまとまって読めるものが少なかったと感じていていました。そうしたなかで、現地の作家による当時の記録や、率直な想いが綴られている本書に、少し助けられたような気がしています。

上記noteにも掲載されている著者あとがきの、「僕は忘れたくない」というフレーズの繰り返し部分が印象的です。こういった出来事があったときのことを記録しておくことの意味を感じます。

詩集

コロナ禍という状況は、多くの人にとってなにかしら良くない影響があったと思います。自分の場合は、文学との関連でいうと3月からしばらくの間は長い文章が読めなくて困りました。

そのため、短い文章なら読めるんじゃないかという理由で、今まであまり読んだことのなかった詩や短歌なんかをいくつか読んだりしていました。結果的に、良い出会いがあったように思います。

江國香織『すみれの花の砂糖づけ』新潮社

www.shinchosha.co.jp

実は江國香織は、小・中学生のころに『きらきらひかる』『冷静と情熱のあいだ』を読んで以来でした。詩集も出ていたとは知りませんでした。

本書は、〈少女〉から〈女性〉へ、みたいな流れがあるように思います。甘いはずの「砂糖」という言葉が、形を変えて何度もリフレインしていき、思い出と現実のあいだを行ったり来たりしているような詩集だと感じました。

銀色夏生『詩集 すみわたる夜空のような』KADOKAWA

www.kadokawa.co.jp

まえがきもあとがきも解説もなく、詩だけが書かれている本です。書籍として閉じていない分、かえって作品としての余白が多く想像する余地が膨らむように思います。

暗くて静かな空間で読むと、とても浸れて良い気がします。

穂村弘東直子回転ドアは、順番に』筑摩書房

www.chikumashobo.co.jp

詩というか短歌メインの本なんですが、短歌にはそれぞれ詩のような文が添えられており、短い文でもたくさんのものを読み取れる本だと思います。

コンセプトとしては、2人の著者が短歌をメールで送り合う本です。おしゃれですね。LINEでもこういうやりとりをみんなやると良いと思います。

短歌

阿波野巧也『ビギナーズラック』左右社

sayusha.com

いつものようにTwitterをだらだらと眺めていたところ、下記のツイートがタイムライン上に現われました。

本書の紹介noteなわけですが、引用されている歌を目にして衝撃を受けました。こんな身近な事象を短歌として表現できるなんてすごすぎる、と思ったのです。

カロリーの摂取にメロンパンはいい となりでケンカしている男女

ほんとうのことはなんにも言わないでぼくたちは深夜のなか卯なう

見てきたことを話してほしい生まれ育った町でのイオンモールのことを

憂鬱はセブンイレブンにやって来てホットスナック買って食べます

完全にパンチラインでしょ。もし大学生のときにタイムラインに流れてきてたとしたら、完全に食らってたと思う。

そんなわけで、ちょうど長い文章を読む気が起きない時期だったこともあって読んでみました。とても良いです。

私のように、あまり短歌に触れたことのない人にも読んでもらいたい歌集です。

川野芽生『Lilith』書肆侃侃房

www.kankanbou.com

たまたま知っている方が実は短歌の人だったということを知り、初の歌集が出るとのことだったので買って読みました。

今回のアドベントカレンダーでも、下記の記事で紹介されている本です。

Bist du schon mal da? — たましいの器が人間のおんなの形をしていることが苦しい。長く美しく伸ばした髪を「女性らしい」と形容される...

この本は、装丁がとにかく美しいです。内容についても、出てくる言葉の一つ一つが鋭く、かつ美しい本です。

さまざまな文学的あるいは社会的な背景が踏まえられている歌集ではありますが、あまり深く考えなくても、刺さるものがあるように思います。

眠りとは夜ごと織りなす繭にして解るるをよもすがら繕ふ(22頁)

書架の間を通路と呼べりこの夏はいづこへ至るためのくるしさ(48頁)

にんげんに美貌あること哀しめよ顔もつ者は顔伏する世に(109頁)

ヴァージニア・ウルフの住みし街に来てねむれり自分ひとりの部屋に(147頁)

その他、昔読んだ本の再読

真木悠介『気流の鳴る音』筑摩書房

www.chikumashobo.co.jp

前に読んだのは5年以上も前になります。

本書にもある「根をもつことと翼をもつこと」という言葉を折に触れて思い出します。自分の理解では、これはアンソニー・ギデンズにおける〈脱埋め込み/再埋め込み〉の概念に近いもののとして捉えています。

世界や社会との関わり方について、いろいろと考えるなかで参考になる本だと思います。久しぶりに読み返しましたが、感じるものがとても多い本です。定期的に読み返したいと思います。

おわり

私は普段から文芸に触れる機会があまり多いわけではないですが、実は今年はかなり多くの文芸に触れることができた年なのではないかと思います。

なんとなく気持ちが不安なときに、寄り添ってくれるものとして自分にとって文芸は大きな位置を占めているように思います。

もちろん、そうでないときも読んで楽しかったり、感じるものが多かったりして、得るものがとても大きいです。

2021年は、今年とは違った形で、文芸にたくさん触れることができたら良いなと思います。